リモートワークで雑談が消えた組織に起きる静かな崩壊
リモートワークで消えた「雑談」——あなたの組織は大丈夫ですか?
「最近、同僚と業務以外の話をしたのはいつですか?」
この問いに即答できない方は少なくないのではないでしょうか。
リモートワークやテレワークが急速に普及したことで、私たちの働き方は大きく変わりました。通勤時間がなくなり、会議はオンラインで効率化され、資料は共有フォルダで管理できる——。生産性の面では多くの恩恵を受けています。
しかし、その裏で静かに失われたものがあります。雑談です。
オフィスの廊下ですれ違ったときの「最近どう?」。お昼休みに自然と始まる何気ない会話。会議室に早く着いた人同士の世間話。こうした一見無駄に思える雑談が、リモートワークへの移行とともに、ほぼ完全に消え去りました。
そして今、多くの組織で次のような問題が表面化しています。
- チームメンバーの顔と名前は知っているが、人となりがわからない
- 困っていることがあっても、誰に相談すればいいかわからない
- Slackやチャットは業務連絡ばかりで、心理的な距離が縮まらない
- 新入社員が孤立し、早期離職するケースが増えている
- 部署間の情報の壁がかつてないほど厚くなっている
コミュニケーション不足は、目に見えるかたちでは現れません。プロジェクトは一見回っているように見え、会議も予定通り行われている。しかし、その水面下で組織は少しずつ、確実に蝕まれています。
なぜ「たかが雑談」がこれほど重要なのか
「雑談なんて仕事の邪魔だ」「テレワークで無駄話がなくなって効率的になった」——。
そう感じている方もいるかもしれません。実は、筆者自身もリモートワーク初期にはそう思っていました。しかし、時間が経つにつれて、雑談が果たしていた見えない役割の大きさに気づかされることになります。
MITメディアラボの研究によると、組織のパフォーマンスを最も正確に予測する指標は、公式な会議の質ではなく、非公式なコミュニケーションの頻度と多様性だとされています。つまり、雑談こそが組織力の源泉だったのです。
雑談が担っていた役割を整理すると、その重要性がより明確になります。
信頼関係の構築
業務の話だけでは、相手の価値観や考え方を知ることはできません。雑談を通じて「この人はこういう人なんだ」と理解することで、心理的安全性が生まれます。心理的安全性がなければ、会議で率直な意見を出すことも、ミスを正直に報告することもできません。
暗黙知の共有
「そういえば、〇〇部門でこんな事例があったよ」「あの件、△△さんに聞くと詳しいよ」——。こうした雑談の中で自然と共有される情報は、公式なコミュニケーションチャネルでは決して流通しません。ナレッジベースにも書かれない、生きた知識です。
メンタルヘルスのセーフティネット
「最近、顔色悪いけど大丈夫?」「なんか元気ないね」——。雑談の中でさりげなく行われていたこうした声かけは、メンタル不調の早期発見に大きな役割を果たしていました。テレワーク環境では、カメラをオフにしていれば表情すら見えません。
イノベーションの種
多くの革新的なアイデアは、異なる専門分野の人間が偶然交わる場——いわゆる「弱い紐帯(weak ties)」から生まれることが知られています。ランチの席で隣り合わせた他部署の人との雑談から、画期的なプロジェクトが始まった経験を持つ方もいるのではないでしょうか。
リモートワークで雑談が消えるということは、これらすべての機能が失われるということです。そして、その影響はコミュニケーション不足というかたちで、じわじわと組織全体に広がっていきます。
リモートワーク環境でも「雑談」を取り戻す方法はある
雑談を取り戻すソリューション
ここまで読んで「雑談が大事なのはわかった。でも、テレワークで自然な雑談なんてできるわけがない」と思った方もいるでしょう。
確かに、リモートワーク環境でオフィスと同じ雑談を完全に再現することはできません。しかし、雑談の「機能」を意図的にデザインすることで、コミュニケーション不足を解消する方法はいくつもあります。
重要なのは、「雑談は自然に生まれるもの」という思い込みを捨て、仕組みとしてコミュニケーションの余白をつくるという発想に切り替えることです。
組織の「雑談力」を回復させる5つの施策
施策1:業務チャットに「雑談チャンネル」を設ける
最もシンプルかつ効果的な施策です。SlackやTeamsに雑談専用のチャンネルを作成し、業務とは無関係な話題を投稿してよい場所を公式に設けます。
ポイントは以下のとおりです。
- 経営層やマネージャーが率先して投稿する:上司が使っていないチャンネルには部下も投稿しにくい
- 投稿のハードルを下げるテーマを用意する:「今日のランチ」「おすすめの本」「週末何した?」など
- リアクション文化を育てる:テキストの返信がなくてもスタンプで気軽に反応できる空気をつくる
- 強制しない:「全員必ず週1回投稿」などのルールは逆効果
ただし、既存のビジネスチャットツールでは業務連絡と雑談が混在しやすく、「仕事中に雑談を見ると罪悪感がある」「通知が増えて煩わしい」という声も少なくありません。雑談と業務を自然に切り分けられる設計のツールを選ぶことも重要です。
施策2:オンライン雑談タイムを定例化する
週に1回、15〜30分の「雑談タイム」をチームの予定に組み込みます。議題なし、アジェンダなし。ただ話すだけの時間です。
効果を高めるための工夫としては以下があります。
- 少人数(3〜5人)で実施する:大人数だと発言しにくい
- シャッフル制にする:毎回メンバーを変えることで、普段話さない人との接点をつくる
- カメラオンを推奨する:表情が見えるだけでコミュニケーションの質は大きく変わる
- アイスブレイクの質問を用意する:「最近ハマっていること」「子どもの頃の夢」など
この施策は特に、リモートワークで入社した新入社員のコミュニケーション不足解消に大きな効果を発揮します。業務では接点のない先輩社員との雑談を通じて、会社の文化や暗黙のルールを学ぶ機会になるからです。
施策3:「バーチャルオフィス」ツールを導入する
oViceやGatherなどのバーチャルオフィスツールを導入し、オンライン上にオフィス空間を再現する方法もあります。
アバターを動かして近づくだけで会話が始まるため、リモートワークでも「すれ違いざまの雑談」に近い体験ができます。
ただし、導入のハードルと定着率には注意が必要です。「最初は面白がって使っていたが、1ヶ月で誰もいなくなった」というケースは珍しくありません。テレワーク環境でのコミュニケーション不足解消には、ツールだけでなく運用の仕組みとセットで考える必要があります。
施策4:1on1ミーティングに「雑談枠」を設ける
多くの企業で実施されている1on1ミーティング。その冒頭5〜10分を、意識的に雑談の時間として確保しましょう。
業務の進捗確認からいきなり始めるのではなく、「最近どう?」という何気ない問いかけから入ることで、部下が本音を話しやすい空気をつくることができます。
リモートワーク環境では、部下の異変に気づくチャンスが激減します。1on1の雑談枠は、マネージャーにとってチームメンバーの状態を把握する貴重な機会です。
施策5:非同期の雑談を仕組み化する
テレワークではメンバーの勤務時間帯がバラバラになりがちです。全員が同時にオンラインである必要のない非同期型の雑談も有効です。
具体的な方法としては以下があります。
- 日報や週報に「ひとこと」欄を設ける:業務報告に加え、個人的な一言を添える
- 社内ブログや投稿機能を活用する:趣味や学びの共有など、業務外のナレッジを発信する場をつくる
- 「今日の一問」Bot:毎朝チャットに自動で質問を投稿し、メンバーがそれぞれ回答する
非同期の雑談は、リモートワーク特有の「タイミングが合わない」問題を解決しつつ、メンバーの人となりを知る手がかりを増やしてくれます。
こうしたコミュニケーションの余白を一つのプラットフォーム上で自然に実現したいなら、Seediaのようなサービスも選択肢の一つです。業務のやり取りと雑談を適度に分離しながら、チーム内の非公式な交流を促進する設計になっています。
雑談を仕組み化する5つの施策
こんな組織にこそ、雑談の再設計をおすすめします
- リモートワークやテレワークが常態化し、対面でのコミュニケーションがほぼなくなった
- チームのエンゲージメントスコアが低下傾向にある
- 新入社員や中途入社者の早期離職が増えている
- 部署間の連携がうまくいかず、サイロ化が進んでいる
- コミュニケーション不足を感じつつも、具体的な対策が打てていない
- 1on1や会議は実施しているが、本音の会話が生まれない
一つでも心当たりがあるなら、今すぐ「雑談」の仕組みを見直すべきです。
コミュニケーション不足による組織の劣化は、業績悪化という目に見える結果になるまで気づかれにくいのが特徴です。業績が落ちてから「なぜうまくいかなくなったのか」を振り返ると、原因は数ヶ月前、あるいは数年前に失われた雑談にあった——。そんなケースが今、多くの企業で起きています。
雑談は単なる「おしゃべり」ではありません。組織の結合組織であり、イノベーションの土壌であり、メンタルヘルスのセーフティネットです。リモートワーク時代だからこそ、意図的にデザインすべき最も重要なコミュニケーションなのです。
まとめ
リモートワークでの雑談の重要性まとめ
リモートワークやテレワークの普及は、働き方に多くのメリットをもたらしました。しかしその一方で、雑談という組織の「見えないインフラ」が失われ、コミュニケーション不足が静かに組織を蝕んでいます。
この記事のポイントを振り返りましょう。
- 雑談は組織の基盤 — 信頼関係の構築、暗黙知の共有、メンタルヘルスの維持、イノベーションの創出に不可欠な役割を果たしていた
- リモートワークでは雑談は自然に生まれない — 意図的に仕組みをつくらなければ、コミュニケーション不足は悪化する一方
- 雑談チャンネルの設置 — 業務と切り離された雑談の場を公式に設け、心理的ハードルを下げる
- 定例の雑談タイムとシャッフル制 — 少人数×多様な組み合わせで、弱い紐帯を意識的につくる
- 非同期の雑談も有効 — 時差のあるリモートワーク環境では、非同期で人となりを知る仕組みが効果的
雑談の消失は、目に見えにくいからこそ危険です。組織の崩壊が目に見えるかたちで現れたときには、すでに手遅れかもしれません。
まずは来週から、チームのチャットに雑談チャンネルを一つ作ることから始めてみませんか。小さな一歩が、組織の未来を大きく変えるかもしれません。