称賛を「評価」に使ってはいけない理由|内発的動機付けの科学

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称賛と評価の違い称賛と評価の違い

「称賛ランキング」を導入したら、組織がおかしくなった

ある企業での出来事です。

「称賛文化を作ろう」という経営陣の号令のもと、社員同士で「ありがとう」を送り合うシステムが導入されました。月間で最も多くの「ありがとう」を受け取った社員を表彰し、評価にも反映する仕組みです。

最初は好評でした。「ありがとう」の数は順調に増え、経営陣は満足げでした。

しかし、半年後。

社内には、奇妙な空気が漂い始めました。

  • 「ありがとう」を送る相手を損得で選ぶ社員が現れた
  • 「ありがとう」の見返りを期待する雰囲気が生まれた
  • ランキング上位を狙ってパフォーマンスする人が増えた
  • 本当に感謝している場面でも、「媚びを売っている」と思われたくないから言わない人が出てきた

称賛を「評価」に結びつけた瞬間、称賛の意味が変わってしまったのです。

「良かれと思って」が裏目に出る理由

この企業の失敗は珍しいケースではありません。

「称賛を増やしたい」「ポジティブな文化を作りたい」——その想いは正しい。しかし、手段を間違えると、本来の目的とは真逆の結果を招いてしまいます。

なぜ、このようなことが起きるのでしょうか?

答えは、**「内発的動機付け」と「外発的動機付け」**の違いにあります。

心理学者エドワード・デシとリチャード・ライアンの「自己決定理論」によれば、人間の動機付けには2種類あります。

内発的動機付け: 活動そのものに喜びを感じ、自発的に行動する 外発的動機付け: 報酬や罰など、外部からの刺激によって行動する

そして研究は明確に示しています。内発的動機付けで行動していたことに、外発的報酬を与えると、もともとの動機が損なわれる——これを「アンダーマイニング効果」と呼びます。

称賛を評価やランキングに結びつけることは、純粋な感謝を「報酬獲得の手段」に変えてしまうのです。

内発的動機付けの科学が教えてくれること

内発的動機付けと外発的動機付け内発的動機付けと外発的動機付け

デシとライアンの研究によると、内発的動機付けを高めるには、3つの心理的欲求を満たす必要があります。

1. 自律性(Autonomy)

「自分で選んでいる」という感覚。強制されるのではなく、自らの意志で行動していると感じられること。

称賛を「義務」にした瞬間、自律性は失われます。「月に5回は『ありがとう』を送りましょう」——こうしたルールは、称賛から自発性を奪います。

2. 有能感(Competence)

「自分はできる」という感覚。努力によって成長している、貢献できていると感じられること。

称賛がランキング化されると、「勝ち負け」の構図が生まれます。下位の人は有能感を感じにくくなり、エンゲージメントが下がるリスクがあります。

3. 関係性(Relatedness)

「人とつながっている」という感覚。周囲の人と信頼関係で結ばれていると感じられること。

称賛が評価に影響すると、「この人は本心で言っているのか?」という疑念が生まれます。心理的安全性の土台である信頼関係が揺らいでしまうのです。

ダニエル・ピンクの著書『モチベーション3.0』でも、**「報酬はパフォーマンスを下げることがある」**という研究結果が多数紹介されています。特に、創造性や内発的な喜びが重要な活動において、外発的報酬は逆効果になりやすいのです。

称賛の本来の力を活かす5つの原則

では、称賛を正しく活用するには、どうすればよいのでしょうか。内発的動機付けの科学に基づく5つの原則をご紹介します。

称賛を活かす5つの原則称賛を活かす5つの原則

原則1:評価から切り離す

称賛は、人事評価や査定とは完全に分離するべきです。

称賛の数をKPIにしたり、ボーナスに反映させたりすると、称賛の意味が変質します。称賛はあくまで「感謝を伝える行為」であり、それ自体が目的でなければなりません。

原則2:ランキング化しない

「今月の称賛獲得数ランキング」のような可視化は避けましょう。

競争意識は短期的には行動を促しますが、長期的には協力関係を損ない、心理的安全性を下げます。称賛は「競争」ではなく「共感」のツールです。

原則3:強制しない

「毎週必ず3人に感謝を伝えましょう」——こうしたルールは逆効果です。

義務化された称賛は、送る側にも受け取る側にも**「本当の気持ちじゃない」**という違和感を生みます。称賛は自然に湧き出るものであるべきです。

原則4:具体的に伝える

「すごいね」「ありがとう」だけでは、称賛の効果は限定的です。

「何が」「どう」良かったのかを具体的に伝えることで、受け取る側は「自分の行動が認められた」と感じられます。

NGパターン: 「いつもありがとう」 OKパターン: 「昨日の会議で、クライアントの質問に冷静に対応してくれてありがとう。あの場が締まったのは君のおかげだよ」

原則5:プロセスも称える

結果だけでなく、プロセスや姿勢を称えることが重要です。

「売上を達成した」という結果だけでなく、「粘り強くフォローし続けた」「チームをサポートしてくれた」といったプロセスを認めることで、**「成果が出なくても、努力は見てもらえる」**という安心感が生まれます。

これが、組織風土としての心理的安全性を育てます。

正しい称賛がもたらす効果

称賛がもたらす好循環称賛がもたらす好循環

評価から切り離された「純粋な称賛」は、組織に大きな効果をもたらします。

エンゲージメントの向上

ギャラップ社の調査によると、「直近7日間に仕事を認められた」と感じている社員は、そうでない社員に比べてエンゲージメントが大幅に高いという結果が出ています。重要なのは「評価された」ではなく「認められた」という感覚です。

離職率の低下

「自分の貢献が見えている」「感謝されている」という実感は、組織への帰属意識を高めます。称賛文化が根付いた組織では、離職率が低下する傾向があります。

心理的安全性の向上

「この人は本心で感謝してくれている」と感じられる環境では、率直なコミュニケーションが生まれやすくなります。称賛が信頼関係を育て、心理的安全性の土台を作ります。

協力文化の醸成

競争ではなく共感を軸にした称賛は、メンバー同士の協力を促進します。「助けたら感謝される」という自然なサイクルが、チームワークを強化します。


称賛を「文化」として根付かせるためには、適切なツールの活用も効果的です。

Seediaは、あえてランキング機能を設けず、称賛を「評価」から切り離した設計になっています。「ありがとう箱」に蓄積された感謝のメッセージは、競争ではなく共感の可視化として機能し、内発的動機付けを損なうことなく称賛文化を育てることができます。


こんな組織におすすめです

称賛の正しい活用は、特に以下のような課題を感じている組織に効果的です。

  • 称賛制度を導入したが、形骸化している
  • 「やらされ感」のある称賛が増えている
  • 称賛をめぐる社内政治が発生している
  • 短期的には称賛が増えたが、組織の雰囲気は変わらない
  • エンゲージメント調査の結果が改善しない

もし現在、称賛を評価やランキングに結びつけているなら、一度その仕組みを見直すことをお勧めします。評価から切り離すだけで、称賛の質が変わる可能性があります。

まとめ:称賛は「評価」ではなく「感謝」

称賛を「評価の道具」にすると、内発的動機付けが損なわれ、本来の効果が失われます。

正しい称賛のための5つの原則:

  1. 評価から切り離す——人事評価やボーナスと連動させない
  2. ランキング化しない——競争ではなく共感のツールとして使う
  3. 強制しない——義務化せず、自然に生まれる称賛を大切にする
  4. 具体的に伝える——「何が」「どう」良かったかを明確に
  5. プロセスも称える——結果だけでなく、努力や姿勢を認める

称賛の本質は、**「あなたの存在や行動を、私は見ている。そして感謝している」**というメッセージを伝えることです。

この純粋な感謝の積み重ねが、心理的安全性を育て、エンゲージメントを高め、離職率を下げ、強い組織風土を作ります。

今日から始められること:

  • 誰かに「ありがとう」を伝えるとき、具体的な理由を一言添える
  • 結果だけでなく、プロセスや姿勢にも目を向ける
  • 称賛を「評価のため」ではなく、純粋な感謝として伝える

あなたの「ありがとう」が、評価ではなく感謝として届いたとき、その言葉は相手の心に深く響きます。

称賛の力を、正しく活かしていきませんか?

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