「誰に聞けばいいかわからない」をゼロにする、オープンな質問文化
「聞きたいけど、誰に聞けばいいかわからない」——リモート時代の見えない壁
「この件、誰に確認すればいいんだろう……」
リモートワークで仕事をしていて、こんなふうに手が止まった経験はないでしょうか。オフィスにいた頃なら、隣の席の人に「ちょっといい?」と声をかけたり、詳しそうな先輩が通りかかるのを待って聞いたりできました。でも、テレワークの画面の向こうには、「ちょっといい?」と気軽に声をかけられる相手が見えません。
問題は、答えを知らないことではなく、「誰が答えを持っているかわからない」ことです。
チャットツールの相手一覧を眺めても、誰がこの分野に詳しいのか、今聞いても大丈夫なのか、そもそもこんな初歩的なことを聞いていいのか——頭の中にいくつもの判断が渦巻いて、結局「自分で調べよう」と遠回りを始める。あるいは、聞かないまま自己判断で進めて、あとから手戻りが発生する。
これは個人の問題ではありません。コミュニケーション不足が常態化した組織で、構造的に起きている現象です。そして、この「聞けない」が蓄積した結果、業務のスピードが落ち、ミスが増え、社員のストレスが静かに膨らんでいきます。
「質問しづらい空気」は、いつの間にか組織を蝕んでいる
「うちのチームはオープンだから、質問しづらいなんてことはないはずだよ」
そう思っているリーダーやマネージャーの方にこそ、知ってほしい事実があります。多くの社員は「質問しづらい」と感じていても、そのこと自体を言い出せないのです。
ある調査では、リモート環境で働く社員の約6割が「質問のタイミングがわからない」と感じており、約4割が「聞く相手がわからないまま自己解決を試みた経験がある」と回答しています。しかし、この困りごとを上司やチームに伝えた人は、そのうちの2割にも満たなかったという結果もあります。
なぜ言い出せないのか。それは、質問すること自体が「できない人」のレッテルにつながるのではないか、という恐れがあるからです。
オフィスでの雑談の中なら、「ねえ、これってどうするんだっけ?」と自然に聞けたことでも、テレワークではチャットに文字として残ります。「こんな基本的なことを聞いて、仕事ができないと思われないか」「忙しそうな人の手を止めてしまわないか」——リモートワーク特有の距離感が、質問のハードルを何倍にも高くしています。
この「質問しづらさ」がもたらす組織へのダメージは深刻です。
- 業務効率の低下:10分で解決できる質問を、1時間かけて自力で調べようとする
- ミスと手戻りの増加:確認不足のまま作業を進め、あとからやり直しになる
- 属人化の加速:特定の人だけが知識を持ち、その人がいないと仕事が回らなくなる
- 新人の孤立:入社したばかりの社員が「誰に聞けばいいか」すらわからず、成長が遅れる
- 心理的安全性の低下:「聞けない」が「言えない」に発展し、問題の報告まで遅れるようになる
コミュニケーション不足は、目に見える大きなトラブルではなく、日常の小さな「聞けなかった」の積み重ねから始まるのです。
解決策は「もっとコミュニケーションを取ろう」ではない
オープンな質問文化の仕組み
「質問しやすい雰囲気をつくりましょう」「もっとコミュニケーションを取りましょう」——よく聞くアドバイスですが、これだけでは何も変わりません。問題の本質は「雰囲気」ではなく「仕組み」にあるからです。
リモートワークやテレワークで雑談の機会が減った今、質問しやすさを個人の勇気や性格に頼るのは限界があります。必要なのは、「聞きたいことを、適切な人に、気軽に聞ける」状態を、組織の仕組みとして設計することです。
この記事では、「誰に聞けばいいかわからない」を解消し、オープンな質問文化を組織に根づかせるための具体的な方法を紹介します。特別なツール導入や大掛かりな制度改革は必要ありません。明日から始められることばかりです。
オープンな質問文化をつくる5つの実践法
実践1:質問は「DMではなくオープンチャンネルで」を原則にする
質問文化を変える第一歩は、質問の場所を変えることです。
多くの人が質問をDM(ダイレクトメッセージ)で送るのは、「こんな質問をみんなの前でするのは恥ずかしい」「特定の人に聞いた方が早い」という理由からです。しかし、DMでの質問はチーム全体にとって大きな損失を生みます。
DMで解決したやりとりは、他のメンバーの目に触れません。同じ疑問を持つ人が別の日に同じ質問をDMで送り、同じ人が同じ回答をする——この非効率が組織のあちこちで発生しているのです。
具体的なアクション:
- チームで「質問は原則オープンチャンネルで」というルールを明文化する
- **「#質問部屋」「#聞いてみよう」**といった専用チャンネルを設け、質問のハードルを下げる
- リーダー自身がオープンチャンネルで「これ、誰か知ってる?」と質問する姿を見せる
- オープンチャンネルでの質問に対して「ナイス質問!」とリアクションする文化をつくる
ポイントは、質問者を称える仕組みを意図的につくることです。「聞くことは恥ずかしい」から「聞くことはチームへの貢献」に、質問の意味づけを変えていきましょう。
実践2:「誰が何を知っているか」を見える化する
「誰に聞けばいいかわからない」の根本原因は、チーム内の知識マップが共有されていないことにあります。
オフィスにいれば、「あの人は経理に詳しい」「この件はBさんが前に担当していた」といった知識の在りかが、日常の雑談や観察を通じて自然と把握できていました。しかしリモートワークでは、メンバーの専門領域や経験が見えにくくなります。
具体的なアクション:
- スキルマップやナレッジマップを作成し、「〇〇の件なら△△さんに聞く」を一覧化する
- 社員プロフィールに「得意分野」「相談OK領域」を記載してもらう
- 新しいプロジェクト開始時に「この領域に詳しい人」を明示的にアナウンスする
- 月1回、各メンバーが「最近取り組んでいること」を共有するライトニングトーク会を開催する
完璧なデータベースをつくる必要はありません。「この人に聞けばいい」が1つでも増えれば、質問のハードルは確実に下がります。
実践3:雑談の中に「質問のタネ」を仕込む
テレワーク環境で質問しやすさを高める意外な方法が、雑談を増やすことです。
一見すると遠回りに思えるかもしれません。しかし、人は関係性のない相手に質問するのが苦手です。名前と顔は知っているけれど、一度も雑談したことがない同僚に、業務上の質問をチャットで送るのは、想像以上に心理的ハードルが高い。
雑談は、業務上の質問をするための「助走」の役割を果たします。天気の話でも、昨日のニュースでも、何でもいい。一度でもカジュアルな会話をした相手には、業務の質問もしやすくなる——これは心理学でも確認されている効果です。
具体的なアクション:
- 朝会やチームミーティングの冒頭3分を「チェックイン雑談」に充てる
- 部署横断でランダムにペアを組む**「コーヒーチャット」**を月2回実施する
- チャットでの雑談を歓迎し、業務時間中の軽い会話を「サボり」と捉えない空気をつくる
こうした雑談のきっかけづくりを仕組みとして組織に取り入れることで、コミュニケーション不足は自然と改善されていきます。たとえばSeediaのように、社員同士の自然な会話を自動でマッチングしてくれるサービスを活用すれば、「誰と話せばいいかわからない」という最初のハードルを仕組みの力で解消できます。
オープンな質問文化をつくる5つのステップ
実践4:リーダーが「知らない」を見せる
質問文化を最も強力に変えるのは、リーダーの行動です。
メンバーが質問をためらう最大の理由は「無知だと思われたくない」という心理です。この心理を解きほぐすには、リーダー自身が「知らないこと」をオープンにすることが最も効果的です。
「ごめん、この件は自分も詳しくないんだけど、誰か知ってる?」「この技術、勉強中なんだけど、良い資料知らない?」——リーダーがこういった発言をオープンチャンネルでする姿を見ると、メンバーの中にある**「質問=弱さ」という思い込み**が崩れていきます。
具体的なアクション:
- 週に1回以上、リーダーがオープンチャンネルで何かを質問する(意識的に)
- 1on1で部下に「最近、聞きたかったけど聞けなかったことある?」と定期的に尋ねる
- チームの振り返りで「今週の良い質問」を取り上げ、質問者を称賛する
- 「わからない」と言ったメンバーに「教えてくれてありがとう」とフィードバックする
リモートワーク環境では、リーダーの行動は対面以上にメンバーに影響を与えます。チャットでの発言はログとして残り、全員の目に触れるからです。だからこそ、リーダーが率先して「聞く姿勢」を見せることが、組織全体の質問文化を変える起爆剤になります。
実践5:「質問のテンプレート」で聞く技術を底上げする
「誰に聞けばいいかわからない」と並んで多いのが、**「どう聞けばいいかわからない」**という悩みです。
特にテレワークでのテキストコミュニケーションでは、質問の仕方ひとつで相手に与える印象が大きく変わります。「これ、どうすればいいですか?」という曖昧な質問と、背景と自分の考えを添えた質問では、回答する側の負担もスピードもまったく違います。
しかし、「良い質問の仕方」を教わる機会は意外と少ない。だからこそ、組織として質問のフォーマットを用意することが有効です。
具体的なアクション:
- 質問テンプレートをチームで共有する(例:「やりたいこと」「試したこと」「困っていること」の3項目)
- 新人オンボーディングに「質問の仕方」を含める
- 良い質問の事例を蓄積し、チーム内で共有する
- 「質問を恐れないで。でも、まず5分だけ自分で調べてから聞こう」というガイドラインを設ける
テンプレートがあることで、質問する側は「何を書けばいいか」に迷わなくなり、回答する側は的確に答えやすくなります。質問の質が上がると、回答の質も上がり、結果として組織全体のナレッジ共有が加速する——好循環が生まれます。
こんなチーム・組織におすすめ
- リモートワークやテレワークが中心で、新人が「誰に聞けばいいかわからない」と悩んでいる
- チャットでの質問が少なく、DM で個別にやりとりされる傾向が強い
- 特定の「物知り」に質問が集中し、その人がボトルネックになっている
- 雑談が減って、部署やチームをまたいだ横のつながりが薄れている
- コミュニケーション不足を感じているが、「1on1を増やす」以外の打ち手が見つからない
「聞けない」が常態化した組織は、時間が経つほど属人化とサイロ化が進みます。問題が小さいうちに手を打つことが、組織の健全性を守る鍵です。
まとめ
まとめ
「誰に聞けばいいかわからない」——この一見シンプルな悩みの背景には、リモートワーク時代の組織が抱える構造的な課題が潜んでいます。雑談の機会が減り、メンバー間の関係性が薄くなり、誰が何を知っているかが見えにくくなった結果、質問すること自体のハードルが上がってしまったのです。
しかし、これは解決できる問題です。
- 質問はオープンチャンネルで——DMに閉じた知識をチーム全体の資産にする
- 知識の在りかを見える化——「誰に聞けばいいか」を迷わせない仕組みをつくる
- 雑談を増やして関係性を育む——質問しやすい土壌は、カジュアルな会話から生まれる
- リーダーが「知らない」を見せる——質問=弱さという思い込みを壊す
- 質問テンプレートで技術を底上げ——聞く力を個人のセンスに頼らず、仕組みで支える
これら5つの実践は、どれも明日から始められるものです。大掛かりな制度改革も、高額なツール導入も必要ありません。
まずは今日、チームのオープンチャンネルに1つ質問を投げてみてください。「こんなこと聞いていいのかな」と迷ったら、それこそが投げるべき質問です。あなたの「聞いてみよう」が、チーム全体の質問文化を変える最初の一歩になります。